7つの作品が収められていて、どれも素晴らしいのだが、なかでも好きなのが『星の流れが聞こえるとき』。
.
何かに追われながら東京の片隅で逃げるようにして生きている若者が、偶然7、8歳の女の子と出会って不思議な交流をする。女の子は白いワンピースを来て、手足や頭を繃帯でぐるぐる巻いている。女の子の視力は弱ってきているが、聴力が抜群に冴えていて、ミミズやトカゲの動きがわかる。定期的に会うようになったふたりは、風の音、砂の音などが録音されたテープを一緒に聞くようになる。というのがあらすじなんだけど、こんなんじゃ、残念ながらこの作品の素晴らしさはぜんぜん伝わらない・・・。
.
読むたびに、この世には見えるものだけが存在するのではなく、聞くこと感じることしかできない何かが存在するのだ、という日野啓三のメッセージに強く心を動かされる。
.
この本を読んで何年もたってから、まさにこの女の子に偶然出会ったときは、言いようのない驚きで頭の中が混乱した。『写真都市』(伊藤俊治著)という本で偶然に見つけたのだ。ゴットリープ・ヘルンバインGottfried Helnwein(1948-)というオーストリア生まれのアーティストによるBeautiful Victim II という1974年の作品。
.
日野啓三が『星の流れが聞こえるとき』を発表したのが1984年だから、彼はヘルンバインの絵に影響されて、この作品を書いたのではないかと思い、どこかで日野啓三がヘルンバインについて言及していないか探してみたのだが見つからなかった。今となっては本人に確認することもできない・・・。